Struggles of the Empire

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(6)

ゾンネンフェルス中将とシュナイダーは階級差があったから、直接会話したことは無かったが、メルカッツとロイエンタールが事務の引継ぎをする際に、その場に同席したことはあった。思えば、ラインハルトの元々の旗下の提督と言えばメルカッツだったのであり…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(2)

シュナイダーはオーディーンを離れてもよい算段をつけた、はずであった。ただ、クロジンデのことがやはり気がかりで、一日滞在を延ばせば何か消息が分かるのではないかと、いざ腰を上げようとすればその思いに駆られて、結局、オーディーンにだらだらと滞在…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(3)

ゾンネンフェルス中将はオーディーンの郊外、ホーフブルクの町に居住していた。提督の邸宅にしては、こじんまりとした作りで、独居しているその居住者が、かつてのノイエラント総督の第一の腹心であったとは見ただけでは誰も思いもよらなかったであろう。そ…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(4)

ロイエンタールの叛逆後、ミッターマイヤー元帥は、我が功に代えてもロイエンタール旗下の将兵たちに寛大な処分をとるよう、カイザー・ラインハルトに進言した。帝国軍の相打ちとなったこの悲惨な事件は、その後の処断において甘すぎれば統制の秩序を乱し、…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(1)

シュナイダーはメルカッツ母子に会った後、数日帝都に滞在し、これからどうするべきかを思案していたが、やはりメルカッツ母子、特に娘のクロジンデを放っては置けないと思った。十分なカネは渡したから、それで責任は果たしたとしてもよかったのだが、あの…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(12)

グリューネワルト大公夫妻の結婚の翌日、慶賀ムードを一掃するかのような知らせがもたらされた。 旧帝都オーディーンで大暴動が発生したのである。暴徒たちは郊外のスラム街から帝都の中心部に押し寄せ、官公庁や富裕層が住む地区で破壊と略奪を行った。被害…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(11)

ミュラーは再び茶会でアンネローゼと対峙していた。両者は一言二言、挨拶の言葉は交わしたが、それ以上は会話をするでもなく、茶を啜っていた。 たまらずに、ついにミュラーが口を開いた。 「この話、お受けになられるとは思いませんでした」 ミュラーのその…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(10)

英雄が一代で築き上げた帝国は、その英雄が去ればそのまま瓦解してしまうことが多い。扇の要を失って、有力者たちが抗争をはじめてしまうからである。ローエングラム王朝がそうならなかったのは、カイザー・ラインハルト崩御の時点において有力者たちの同質…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(9)

宮廷に伺候して皇太后とグリューネワルト大公妃に面談する前に、ミュラーはミッターマイヤーに呼ばれて、帝国軍最高首脳の一人として今後の人事案件について話すことになっていた。おそらく、宇宙艦隊司令長官としては、最後の任務になるかも知れなかった。 …

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(8)

メックリンガーがミュラーの受諾の意をミッターマイヤーと国務尚書マリーンドルフ伯に伝え、両者が皇太后ヒルダにそれを伝達した。ヒルダは早速、ヴェストパーレ男爵夫人と共にグリューネワルト大公妃アンネローゼに面会し、アンネローゼの意思を確認した。…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(7)

ナイトハルト・ミュラーは明朗闊達な性格で、温厚な人物であり、精神状態は安定していた。それだけに、ここ数日の落ち込みようは平静を装っていても傍から見てはっきりと分かるものであり、頭を抱えたり、ため息をつくミュラーに何と声をかけていいものか、…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(6)

アンネローゼの茶会には、通常、政府・軍高官、複数人が招かれ、これまで政治にまったく関与しなかったアンネローゼが、万が一、皇位を継承した場合、人脈的に孤立することがないよう、ヒルダの提言で行われているものだった。多くの場合、傍らに乳飲み子の…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(5)

帝国軍三長官は帝国軍首脳の中の心臓でもあり頭脳でもあり、皇帝ラインハルト時代においては当初、オーベルシュタインが軍務尚書、ロイエンタールが統帥本部総長、ミッターマイヤーが宇宙艦隊司令長官を務め、現役の帝国元帥3名がその地位を占めた。ラインハ…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(4)

ヴェストパーレ男爵夫人は皇太后の首席秘書官を務めていて、多忙と言えば多忙だったが、それほどでもないと言えばどれほどでもなかった。外交、軍事、経済、いかなる意味においても専門家ではない彼女がそうした方面で仕事を振られることはなかったし、彼女…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(3)

そして話は、元帥たちにとっては最近の難題である軍縮の話に向かった。 ケスラーはまさか憲兵隊までもリストラを迫られようとはと苦情を言った。 「百歩譲って軍縮が必要だとしても憲兵隊はその業務がますます拡大するばかりです。ここを削るのは愚の骨頂と…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(2)

座談は弾んで、軍務尚書を憲兵総監も腰を上げ難く、仲間内の冗談話から帝国の重鎮としての将来の経国について、話の内容は多岐に及んだ。 「これは卿らの耳に入れておいてもいいだろう。ただし他の者、他の元帥たちにも他言は無用。国務尚書より伺ったところ…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(1)

新帝国暦4年、新年であった。 多事多難の歳月であったがようやく小康を得たようであって、フェザーンは未曽有の繁栄を謳歌していた。遷都以前と比較して、惑星フェザーンの人口はほぼ倍増の50億人に達していて、フェザーン・セントラル・シティは膨れ上がる…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(7)

今回の話にはグロテスクな描写が含まれています。ご注意ください。 - takeruko すえた臭いが煙となって、「町」のあちこちからたなびいていた。水道も無ければ下水道も無いので、汚物を処理するために焚火がたかれ、空襲でもされたかのように、黒焦げの地肌…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(6)

メルカッツ夫妻には娘が一人いて、名をクロジンデと言ったが、年齢は22歳になっているはずだった。彼女もおそらくメルカッツ夫人と共にいるはずだったが、度重なる移転とその居住地のグレードが目に見えて低下しているのを見て、状況は楽観できないとシュナ…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(5)

シュナイダーが旧帝都オーディーンに到着したのは新帝国暦3年7月18日のことだった。エルウィン・ヨーゼフ2世誘拐の実行犯であったレオポルド・シューマッハが逮捕されたことがニュースでも大きく取り上げられ、ランズベルク伯が連れていた子供の遺体が皇帝と…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(4)

期せずして生き延びた。それがシュナイダーの正直な感慨であった。彼は厭世家ではないので、積極的に死を選びたいとまでは思わなかったが、自らが自由惑星同盟への亡命を勧めたメルカッツ提督が死してまで、副官たる自分が生き延びたこと、生き延びてしまっ…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(3)

帝国軍総司令官ミッターマイヤー元帥と軍務尚書メックリンガー元帥は皇太后ヒルダにビジネスディナーに招かれたが、たまたまその曜日はヒルダが設定していた「アレクと夕食を共にする日」だったので、皇帝の付き添いのグリューネワルト大公妃アンネローゼも…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(2)

「陛下は帝国財政を破綻させるおつもりか!」 閣議で、ヒルダがアルターラントの旧農民の疲弊した生活を指摘し、当座しのぎとしてフードスタンプなどの直接支援が必要だと提議するなり、オイゲン・リヒターは激昂した。 「リヒター、そう頭ごなしに否定する…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(13)

宇宙暦801年、新帝国暦3年11月15日、バーラト自治政府最初の総選挙の日であった。 バーラト自治共和政府の国旗というようなものは未だなく、イゼルローン共和政府の国旗も広く流通していたわけではないので、通りには、旧自由惑星同盟の国旗が掲げられた。帝…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(1)

バーラト自治政府の正式発足を受けて、ノイエラントで民主共和主義者たちの活動が活発化するのではないかと、内務省や帝国憲兵は緊張して情勢を見守っていたが、今のところ目立った動きはなかった。 減税に加え、福祉の拡充と言う目立った成果を帝国の統治は…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(12)

新帝国暦3年11月13日、法定選挙活動期間が終了し、投票は翌々日と言うこの日、ユリアン・ミンツとカーテローゼ・フォン・クロイツェルの結婚式が行われた。旧自由惑星同盟では、役所での結婚式が普通であり、ユリアンとカリンも互いに特に信仰もないので、役…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(11)

ユリアン・ミンツは既に「引退」の意向を公表していたが、イゼルローン共和政府が存続している間は軍事部門の責任者であった。軍を解散するならするで、勲章を与えたり、推薦書を書いたり、最後の人事を行ったり、軍司令官としてやるべきことは山ほどあった。…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(10)

ハイネセン郊外の空港に、戦艦ユリシーズから第一陣の連絡艇が着陸すると、待ち受けていた十万を超える群衆は、大喝采でイゼルローン共和政府の面々を迎えた。 その熱狂は、フレデリカやキャゼルヌ、出迎えていたユリアンやアッテンボローにとってもむしろ恐…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(9)

ヤン・ウェンリーは生来の流浪人であり、父が交易商人であったため船以外には定まった住居を持たず、軍人となってからは任地の官舎を転々とした。その生涯において最も長く住んだ家が、ユリアン・ミンツを引き取って以後、3年間、居住したハイネセンの官舎で…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(6)

ロイエンタールの叛乱後、新領土総督府は解体され、行政的には各星系ごとに総督が置かれ、それぞれの星系に配置された方面軍をハイネセンのワーレン艦隊が統括する体制になっていた。これについてはロイエンタールの叛乱後、日も浅いこともあり、当座しのぎ…