2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

Struggles of the Empire 目次

第1章 伝説の終焉 1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12/第2章 十一月の新政府 1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12/13/第3章 シュナイダーの旅 1/2/3/4/5/6/7/第4章 ワルキューレは眠らず 1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12/第5章 ロキの円舞曲 1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/第6章 終わ…

Struggles of the Empire 第8章(終章) 両雄の勅令(6)

新帝国暦8年5月1日、シュナイダーは惑星テルヌーゼンの地方都市、アマルフィにいた。アマルフィは人口がわずか2万人であり、これという見るべき物も、語るべき産業も無かったが、その町外れに小さな養護施設があった。 バーラト星系の養護施設はほとんどが公…

Struggles of the Empire あとがき

数日、執筆できないので、書けるうちに書いてしまおうとして最後は駆け足になりましたが、銀河英雄伝説の長編二次小説"Struggles of the Empire"、完結しました。 自分がこれまで書いた小説の中でもたぶん一番長いものなのかなあと思います。 書いていて思っ…

Struggles of the Empire 第8章(終章) 両雄の勅令(4)

新帝国暦7年4月1日、予定通り、帝国議会選挙が実施され、共和党と連立を組んで与党となった保守党から、ウォルフガング・ミッターマイヤー党首が首班指名を受け、ローエングラム王朝の初代内閣総理大臣となった。バーラト自治政府のヤン・ウェンリー党を母体…

Struggles of the Empire 第8章(終章) 両雄の勅令(5)

地球は900年に及んで汚染され、そこに居住していた人々は、辺境惑星としてはそれなりのボリュームである2000万人を数えていたが、彼らの大半は地球教徒であり、ヒマラヤ山中の地下シェルターで生活をしていた。しかしその人々もワーレン艦隊による地球教本部…

Struggles of the Empire 第8章(終章) 両雄の勅令(2)

あの会見から4日後、メディアを避けるようにして大学に赴いたユリアンは、指導教授に今後の授業を通信を介して行って欲しい旨を伝え、了承の返事を貰うと同時に、幾つかの課題を与えられた。大学図書館でその下調べをしていた時、前の席に背の高い男性が腰を…

Struggles of the Empire 第8章(終章) 両雄の勅令(3)

新帝国暦4年6月に入って、ミッターマイヤー銀河帝国軍総司令官は退役する意向を皇太后と国務尚書に告げた。むろん、両名はすぐに慰留したが、ミッターマイヤーの意思は固かった。更に驚かせたのは、退役と同時に元帥杖を返上し、上級大将の階級に戻る意向を…

Struggles of the Empire 第8章(終章) 両雄の勅令(1)

新帝国暦4年5月20日、この日の19時から、全国民に向けて銀河帝国摂政皇太后が政見放送を行う旨、告知されていた。可能な限り広範囲の国民が視聴することが望ましいとされていたが、その内容がなんであるかについては、知る者はごくわずかであった。帝国政府…

Struggles of the Empire 第7章 我らは嘆かず、遺されしものに力を見出すなり(7)

ウルヴァシーには純粋な民間人は居住しておらず、すべて軍人か軍属、またはその家族であった。元々、無人惑星であったのを、ローエングラム王朝が旧同盟領を征服後に、軍事拠点として建造したものであった。従って、警察は存在しておらず、治安維持活動は帝…

Struggles of the Empire 第7章 我らは嘆かず、遺されしものに力を見出すなり(8)

新帝国暦4年5月10日、“ゴールデンバウム王朝銀河帝国”は正式に降伏宣言をなし、ここに新帝国暦4年の騒乱は終結した。 しかしここから先がむしろ、メックリンガーにとっては難事であった。インフラが破壊されたにも関わらず、流民が消え去ったわけではなかっ…

Struggles of the Empire 第7章 我らは嘆かず、遺されしものに力を見出すなり(5)

ウルヴァシー方面軍司令官公邸から、皇太后ヒルダにユリアンたちは連絡を入れた。カリンの妊娠を、ヒルダも我がことのように喜んだ。 「お姉さま、カリンさんのこと、よろしくお願いいたします」 「もちろんですよ、ヒルダさん」 ユリアンはこの時初めて、銀…

Struggles of the Empire 第7章 我らは嘆かず、遺されしものに力を見出すなり(6)

帝国同胞団にとっては状況は悪化していた。 ノイエラントの反乱の使嗾に失敗した時点で、ブラウンの計画はとん挫した。ポプランを使って、同盟領の反乱を鼓舞するなど、様々な計画を思い描いていたが、ワーレンへの同情が広がったことによって、市民たちが呼…

Struggles of the Empire 第7章 我らは嘆かず、遺されしものに力を見出すなり(4)

超光速巡洋艦は維持費、運航費が通常の艦船の2倍から3倍かかるばかりではなく、建造費そのものが通常型宇宙戦艦の5隻分に相当することもあって、帝国軍でも未だに試作初号機が建造されたに過ぎず、ルシファーと名付けられたその艦船はイゼルローン要塞に配備…

Struggles of the Empire 第7章 我らは嘆かず、遺されしものに力を見出すなり(3)

影から他人を攻撃することは出来ない。隠れているつもりでも、攻撃を続ければやがてはその出処は明らかになる。 ノイエラントの騒乱は、その陰謀の出処をケスラー憲兵総監に指し示すことになった。 「そうか。警察か。警察は軍とは違ってほとんどが現地採用…

Struggles of the Empire 第7章 我らは嘆かず、遺されしものに力を見出すなり(2)

あのような事件があっても、ノイエラントが騒然としても、なおもイゼルローンにおいては静寂は無縁であった。帝国軍がデモに対して、慎重にそのプレッシャーを受け流す構えを見せたことから、デモの多くは結局、デモにとどまった。既に旧帝国領からの移住者…

銀河英雄伝説とジェンダー

銀河英雄伝説はその前身となる短編小説は70年代に書かれ、本編は1982年から5年間に渡って刊行された作品です。同時代の背景としては、70年代末にイギリスでサッチャー政権が発足、新保守主義革命がはじまり、その流れを受けて81年に超大国アメリカでは対ソ強…

Struggles of the Empire 第7章 我らは嘆かず、遺されしものに力を見出すなり(1)

Though nothing can bring back the hour of splendor in the grass, glory in the flower. We will grieve not, rather find strength in what remains behind. - William Wordsworth 帝国軍、人材を輩すること綺羅星の如しとも言われたが、アルターラント…

Struggles of the Empire 第6章 終わりなき夜に生まれつく(8)

勝ってはならない戦争があったとすれば、自由惑星同盟にとっては第7次イゼルローン要塞攻略戦がそうであった。ヤン・ウェンリーの機略によって味方には一兵の損失も出さずに難攻不落を謳われたイゼルローン要塞を陥落せしめたことは、同盟市民をおおいに勝利…

Struggles of the Empire 第6章 終わりなき夜に生まれつく(7)

ゴールデンバウム王朝銀河帝国軍大本営、旧軍務省、ゾンネンフェルス提督の執務室からはじけるようにして出てきたポプランは、廊下を歩くエーリッヒ・ブラウンを見つけると、いきなりその胸倉をつかんだ。 「おい、あれは貴様の仕業か!」 ブラウンの「副官…

Struggles of the Empire 第6章 終わりなき夜に生まれつく(6)

アウグスト・ザムエル・ワーレンが目覚めた時、彼は軍病院のベッドの上にいた。体の節々が痛かった。首をあげることもままならず、両腕両足を、確かめるようにしてゆっくりと動かした。左腕の義手は破損しているのか、感覚がない。しかし右腕と右足にも感覚…

Struggles of the Empire 第6章 終わりなき夜に生まれつく(5)

激増する物流と人の流れに対応するために、イゼルローンでは要塞に隣接して、専門の民間宇宙港用人工天体が建設されていた。軍事施設ではないので流体金属には覆われておらず、白亜の外面がイゼルローンの照り返しを受けて、宇宙空間にくっきりとした輪郭を…

Struggles of the Empire 第6章 終わりなき夜に生まれつく(4)

惑星オーディーンの地表部分はほぼ、反乱軍に制圧された形になり、正規軍は点のいくつかを保持しているに過ぎなかった。ゴールデンバウム王朝時代には、銀河帝国の軍工廠の8割が惑星オーディーンに集中していた。これは他星系の反乱が起こった際に、兵器の製…

Struggles of the Empire 第6章 終わりなき夜に生まれつく(3)

ゾンネンフェルスの直率軍、親衛隊を名乗るその部隊は2万の兵を擁するまでになり、これが直接の手足となって総数でおおよそ1000万人にまで肥大化していた反乱軍を統率していた。鉄の規律とはとてもいかなかったが、女子供を含んでいることが、かえって帝国軍…

Struggles of the Empire 第6章 終わりなき夜に生まれつく(2)

アイゼナッハ元帥戦死の報は誤報であったが、帝国軍首脳部がそれで慰められるわけではなかった。アイゼナッハが死んだことには違いがなかったからである。誤っていたのは戦死の部分であって、正確に言えば、アイゼナッハはひとりの下士官の突然の発砲によっ…

Struggles of the Empire 第6章 終わりなき夜に生まれつく(1)

「アイゼナッハは何をしているのだ!」 統帥本部にてオーディーンから送られてくる情勢の報告を受けて、ミッターマイヤーの怒号が響いた。ミッターマイヤーのかつての主要な部下たちの多くは独立艦隊を率いる提督として各地に赴任しており、今は副官のアムス…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(11)

ゾンネンフェルスはポプランを帝国同胞団に参加させることに積極的ではなかった。第一に空挺部隊出身者では司令体制の確立においては役には立たないであろうと踏んだこと、第二に帝国の軍政と同盟の軍政は異なり、場合によっては矛盾する二つの論理が同一組…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(10)

オリビエ・ポプランは、冷淡と言えば冷淡なところがあって、どういう道を選ぼうがそれは当人次第、傍から見て愚行と分かっていても、事の妥当性は他人には判断できないと思っていた。そもそも自分のこれまでの生き方を見てきても、損か得かで言えば、どちら…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(9)

ゴールデンバウム王朝末期からローエングラム王朝初期のこの時代、人類はその過去において既に数度に渡って文明社会の統一を経験しており、それぞれの人種的特徴をときおり強く遺す者はいても、ほぼすべての人間が混血しており、人種的には単一と言えた。そ…