2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(8)

秦帝国暦3年8月半ば、シュナイダーは恒星間シャトルの乗客となり、惑星フェザーンへ向けて航行中であった。恒星間シャトル運営会社には、旧帝国資本としてはインペリアルズ、リヒトフリューゲル、旧同盟資本としてはインタープラネット、トラフィック・コン…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(7)

時は再び歩みを進める。 新帝国暦4年2月13日、ハイネセンポリスの首相公邸で、ささやかな晩餐会が開かれていた。主賓は総督のホアン・ルイ、ヤン・ウェンリー党からは幹事長のキャゼルヌと幹事長代理のムライ、そしてバグダッシュ官房長官が集っていた。 「…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(5)

ゴールデンバウム王朝第33代皇帝オトフリート4世、実質的には最後の皇帝であるフリードリヒ4世から見れば曾祖父にあたるその人物は極端な漁色家であり「強精帝」と呼ばれた。その庶出子は確認されているだけでも624人を記録している。 庶出であっても、皇子…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(6)

ゾンネンフェルス中将とシュナイダーは階級差があったから、直接会話したことは無かったが、メルカッツとロイエンタールが事務の引継ぎをする際に、その場に同席したことはあった。思えば、ラインハルトの元々の旗下の提督と言えばメルカッツだったのであり…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(2)

シュナイダーはオーディーンを離れてもよい算段をつけた、はずであった。ただ、クロジンデのことがやはり気がかりで、一日滞在を延ばせば何か消息が分かるのではないかと、いざ腰を上げようとすればその思いに駆られて、結局、オーディーンにだらだらと滞在…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(3)

ゾンネンフェルス中将はオーディーンの郊外、ホーフブルクの町に居住していた。提督の邸宅にしては、こじんまりとした作りで、独居しているその居住者が、かつてのノイエラント総督の第一の腹心であったとは見ただけでは誰も思いもよらなかったであろう。そ…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(4)

ロイエンタールの叛逆後、ミッターマイヤー元帥は、我が功に代えてもロイエンタール旗下の将兵たちに寛大な処分をとるよう、カイザー・ラインハルトに進言した。帝国軍の相打ちとなったこの悲惨な事件は、その後の処断において甘すぎれば統制の秩序を乱し、…

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(1)

シュナイダーはメルカッツ母子に会った後、数日帝都に滞在し、これからどうするべきかを思案していたが、やはりメルカッツ母子、特に娘のクロジンデを放っては置けないと思った。十分なカネは渡したから、それで責任は果たしたとしてもよかったのだが、あの…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(12)

グリューネワルト大公夫妻の結婚の翌日、慶賀ムードを一掃するかのような知らせがもたらされた。 旧帝都オーディーンで大暴動が発生したのである。暴徒たちは郊外のスラム街から帝都の中心部に押し寄せ、官公庁や富裕層が住む地区で破壊と略奪を行った。被害…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(11)

ミュラーは再び茶会でアンネローゼと対峙していた。両者は一言二言、挨拶の言葉は交わしたが、それ以上は会話をするでもなく、茶を啜っていた。 たまらずに、ついにミュラーが口を開いた。 「この話、お受けになられるとは思いませんでした」 ミュラーのその…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(10)

英雄が一代で築き上げた帝国は、その英雄が去ればそのまま瓦解してしまうことが多い。扇の要を失って、有力者たちが抗争をはじめてしまうからである。ローエングラム王朝がそうならなかったのは、カイザー・ラインハルト崩御の時点において有力者たちの同質…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(9)

宮廷に伺候して皇太后とグリューネワルト大公妃に面談する前に、ミュラーはミッターマイヤーに呼ばれて、帝国軍最高首脳の一人として今後の人事案件について話すことになっていた。おそらく、宇宙艦隊司令長官としては、最後の任務になるかも知れなかった。 …

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(8)

メックリンガーがミュラーの受諾の意をミッターマイヤーと国務尚書マリーンドルフ伯に伝え、両者が皇太后ヒルダにそれを伝達した。ヒルダは早速、ヴェストパーレ男爵夫人と共にグリューネワルト大公妃アンネローゼに面会し、アンネローゼの意思を確認した。…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(7)

ナイトハルト・ミュラーは明朗闊達な性格で、温厚な人物であり、精神状態は安定していた。それだけに、ここ数日の落ち込みようは平静を装っていても傍から見てはっきりと分かるものであり、頭を抱えたり、ため息をつくミュラーに何と声をかけていいものか、…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(6)

アンネローゼの茶会には、通常、政府・軍高官、複数人が招かれ、これまで政治にまったく関与しなかったアンネローゼが、万が一、皇位を継承した場合、人脈的に孤立することがないよう、ヒルダの提言で行われているものだった。多くの場合、傍らに乳飲み子の…

銀河英雄伝説のこと

銀河英雄伝説を初めて読んだのは、大人になってからのこと。まだ、学生でしたが、成人はしていました。それまでは、もちろんこの作品の存在は知っていましたし、多くの友人からも薦められたんですが、なんだか読もうと言う気になれなかったんです。 SF自体は…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(5)

帝国軍三長官は帝国軍首脳の中の心臓でもあり頭脳でもあり、皇帝ラインハルト時代においては当初、オーベルシュタインが軍務尚書、ロイエンタールが統帥本部総長、ミッターマイヤーが宇宙艦隊司令長官を務め、現役の帝国元帥3名がその地位を占めた。ラインハ…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(4)

ヴェストパーレ男爵夫人は皇太后の首席秘書官を務めていて、多忙と言えば多忙だったが、それほどでもないと言えばどれほどでもなかった。外交、軍事、経済、いかなる意味においても専門家ではない彼女がそうした方面で仕事を振られることはなかったし、彼女…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(3)

そして話は、元帥たちにとっては最近の難題である軍縮の話に向かった。 ケスラーはまさか憲兵隊までもリストラを迫られようとはと苦情を言った。 「百歩譲って軍縮が必要だとしても憲兵隊はその業務がますます拡大するばかりです。ここを削るのは愚の骨頂と…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(2)

座談は弾んで、軍務尚書を憲兵総監も腰を上げ難く、仲間内の冗談話から帝国の重鎮としての将来の経国について、話の内容は多岐に及んだ。 「これは卿らの耳に入れておいてもいいだろう。ただし他の者、他の元帥たちにも他言は無用。国務尚書より伺ったところ…

Struggles of the Empire 第4章 ワルキューレは眠らず(1)

新帝国暦4年、新年であった。 多事多難の歳月であったがようやく小康を得たようであって、フェザーンは未曽有の繁栄を謳歌していた。遷都以前と比較して、惑星フェザーンの人口はほぼ倍増の50億人に達していて、フェザーン・セントラル・シティは膨れ上がる…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(7)

今回の話にはグロテスクな描写が含まれています。ご注意ください。 - takeruko すえた臭いが煙となって、「町」のあちこちからたなびいていた。水道も無ければ下水道も無いので、汚物を処理するために焚火がたかれ、空襲でもされたかのように、黒焦げの地肌…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(6)

メルカッツ夫妻には娘が一人いて、名をクロジンデと言ったが、年齢は22歳になっているはずだった。彼女もおそらくメルカッツ夫人と共にいるはずだったが、度重なる移転とその居住地のグレードが目に見えて低下しているのを見て、状況は楽観できないとシュナ…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(5)

シュナイダーが旧帝都オーディーンに到着したのは新帝国暦3年7月18日のことだった。エルウィン・ヨーゼフ2世誘拐の実行犯であったレオポルド・シューマッハが逮捕されたことがニュースでも大きく取り上げられ、ランズベルク伯が連れていた子供の遺体が皇帝と…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(4)

期せずして生き延びた。それがシュナイダーの正直な感慨であった。彼は厭世家ではないので、積極的に死を選びたいとまでは思わなかったが、自らが自由惑星同盟への亡命を勧めたメルカッツ提督が死してまで、副官たる自分が生き延びたこと、生き延びてしまっ…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(3)

帝国軍総司令官ミッターマイヤー元帥と軍務尚書メックリンガー元帥は皇太后ヒルダにビジネスディナーに招かれたが、たまたまその曜日はヒルダが設定していた「アレクと夕食を共にする日」だったので、皇帝の付き添いのグリューネワルト大公妃アンネローゼも…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(2)

「陛下は帝国財政を破綻させるおつもりか!」 閣議で、ヒルダがアルターラントの旧農民の疲弊した生活を指摘し、当座しのぎとしてフードスタンプなどの直接支援が必要だと提議するなり、オイゲン・リヒターは激昂した。 「リヒター、そう頭ごなしに否定する…