2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(13)

宇宙暦801年、新帝国暦3年11月15日、バーラト自治政府最初の総選挙の日であった。 バーラト自治共和政府の国旗というようなものは未だなく、イゼルローン共和政府の国旗も広く流通していたわけではないので、通りには、旧自由惑星同盟の国旗が掲げられた。帝…

Struggles of the Empire 第3章 シュナイダーの旅(1)

バーラト自治政府の正式発足を受けて、ノイエラントで民主共和主義者たちの活動が活発化するのではないかと、内務省や帝国憲兵は緊張して情勢を見守っていたが、今のところ目立った動きはなかった。 減税に加え、福祉の拡充と言う目立った成果を帝国の統治は…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(12)

新帝国暦3年11月13日、法定選挙活動期間が終了し、投票は翌々日と言うこの日、ユリアン・ミンツとカーテローゼ・フォン・クロイツェルの結婚式が行われた。旧自由惑星同盟では、役所での結婚式が普通であり、ユリアンとカリンも互いに特に信仰もないので、役…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(11)

ユリアン・ミンツは既に「引退」の意向を公表していたが、イゼルローン共和政府が存続している間は軍事部門の責任者であった。軍を解散するならするで、勲章を与えたり、推薦書を書いたり、最後の人事を行ったり、軍司令官としてやるべきことは山ほどあった。…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(10)

ハイネセン郊外の空港に、戦艦ユリシーズから第一陣の連絡艇が着陸すると、待ち受けていた十万を超える群衆は、大喝采でイゼルローン共和政府の面々を迎えた。 その熱狂は、フレデリカやキャゼルヌ、出迎えていたユリアンやアッテンボローにとってもむしろ恐…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(9)

ヤン・ウェンリーは生来の流浪人であり、父が交易商人であったため船以外には定まった住居を持たず、軍人となってからは任地の官舎を転々とした。その生涯において最も長く住んだ家が、ユリアン・ミンツを引き取って以後、3年間、居住したハイネセンの官舎で…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(6)

ロイエンタールの叛乱後、新領土総督府は解体され、行政的には各星系ごとに総督が置かれ、それぞれの星系に配置された方面軍をハイネセンのワーレン艦隊が統括する体制になっていた。これについてはロイエンタールの叛乱後、日も浅いこともあり、当座しのぎ…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(7)

約15日の旅程を経て、惑星ハイネセンに到着したワーレンは、数日後、超光速通信でミュラーからイゼルローン要塞接収完了の報告を受けて、ひとつの依頼を行った。 「イゼルローン要塞の管理システムすべてを、ハードウェアごと交換して貰いたい。出来るか?」…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(8)

バグダッシュはハイネセンポリスで行われた直近の世論調査の数字を示した。 「これは、かつての情報部のつてで行わせた世論調査ですが、ハイネセンポリスでは、我々、ヤン・ウェンリー党の支持率は各地区で若干の開きはありますが、おおむね85%というところ…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(4)

イゼルローン共和政府の最高幹部会の面々は、政府代表であるフレデリカを含めて、すべて軍人だった。後に歴史家は、「あれほど軍政を嫌ったヤン・ウェンリーの活動の行き着いた果てが、軍政そのものであった」と揶揄するのだが、その評価は過程を無視した余…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(5)

ラインハルト・フォン・ローエングラム、この傑出した個人に対する世人の興味はむろん非常に大きなものがあり、生前既に、1000冊を超える評伝が出版されていた。しかし多くは単によく知られているエピソードを集めたものに過ぎず、「伝記と言うよりはパンフ…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(3)

相対的な縮小は軍に特に顕著であったが、行政機構、特に中央政府についてもそれは言えた。銀河の半分を統治していた政府が、銀河のすべてを統治するようになっても、規模として2倍に膨らんだわけではない。目前の課題に対応してゆくうちに、銀河帝国政府は期…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(2)

ミュラーがイゼルローン要塞に出発して直ぐに、ワーレンもバーラト星系の引き渡し準備をすべく、惑星ハイネセンに戻ろうとしたが、その前に、ヒルダがワーレンとの面談を希望した。 ヒルダはすでにルーヴェンブルン宮殿の西翼に移り、そこで執務を執り行って…

Struggles of the Empire 第2章 十一月の新政府(1)

イゼルローン要塞が哨戒宙域に、帝国軍戦艦「王虎(ケーニヒス・ティーゲル)」の艦影を認めたのは、新帝国暦3年8月19日のことだった。このことは一時、イゼルローン共和政府軍首脳部を混乱させた。 「ケーニヒス・ティーゲルだと?ミュラーが来るはずじゃな…

Struggles of the Empire 第1章 伝説の終焉(11)

新帝国暦3年8月5日、皇帝ラインハルト国葬の日だった。 葬儀委員長は学芸尚書ゼーフェルトと軍務尚書メックリンガーが務めた。午前中、軍務省大広間で前軍務尚書オーベルシュタイン元帥の国葬が執り行われた。皇帝ラインハルトの国葬の出席者希望者は多く、…

Struggles of the Empire 第1章 伝説の終焉(12)

皇帝ラインハルトの葬儀には参列希望者が多かった。警備の関係から、どうしても3000人以上の規模にはできず、軍関係者においても、准将以下は参列をことわざるを得なかった。そういう状況にあって、皇帝、皇太后、グリューネワルト大公妃、国務尚書マリーン…

Struggles of the Empire 第1章 伝説の終焉(10)

イゼルローン共和政府は銀河系の中にあって孤立していて、交易も周囲と行っていなかったから、実際には自給自足であり、経済的には限りなく社会主義体制に近かった。しかし、政府と軍を解散するにあたって、差し当たり必要になるのは外貨である。この場合は…

Struggles of the Empire 第1章 伝説の終焉(9)

条約調印を終えた今、即、イゼルローンなりハイネセンなりに進発しても良かったのだが、せっかくだから、礼儀の上から言っても、イゼルローン共和政府代表として皇帝ラインハルトの葬儀に出席するべきだろうとユリアンとフレデリカの間で話がついて、ユリア…

Struggles of the Empire 第1章 伝説の終焉(7)

7月30日13時、摂政皇太后ヒルダは軍務省に入り、その大広間に主要提督たちと今回の人事で異動する者たちを招集し、軍の新体制を示した。 ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥には新たに宇宙軍総司令官ポストを用意し、制服組のトップとした。宇宙軍総司令…

Struggles of the Empire 第1章 伝説の終焉(8)

フェザーン駐在の自由惑星同盟高等弁務官事務所はかつてユリアン・ミンツが駐在武官として勤務した場所だった。自由惑星同盟が滅亡して以来、同事務所ならびに弁務官公邸は帝国政府によって接収されていたが、これという使い道もなく放置されていたのを、ユ…

Struggles of the Empire 第1章 伝説の終焉(6)

ゴールデンバウム王朝からローエングラム王朝に移行した歴史の流れの陰に、他ならぬ「打倒される側」の皇帝フリードリヒ4世の意思が働いていたと述べたアンネローゼの話は、ヒルダ、マリーンドルフ伯、そしてヴェストパーレ男爵夫人にとっては衝撃的であった…

Struggles of the Empire 第1章 伝説の終焉(5)

人々が去り、病室にラインハルトとふたりだけ残されたヒルダは、明け方近くまでその傍らに寄り添っていた。そして思いを断つようにして、ラインハルトに最後の接吻をした後、立ち上がって宮内省が手配して待機していた遺体保存処理業者たちを室内に招じ入れ…

Struggles of the Empire 第1章 伝説の終焉(4)

ナイトハルト・ミュラーは帝国元帥たちのうちで最も若く、鉄壁ミュラーの実績から、序列としてはミッターマイヤー元帥に継ぐ位置にあったが、小家族めいた提督たちの社交においては、末っ子の如く扱われることが多かった。若さゆえにことさら他の提督がミュ…

Struggles of the Empire 第1章 伝説の終焉(3)

新帝国暦3年7月26日午前7時、国務尚書公邸において、ケスラー憲兵総監を除く6名の上級大将が集い、国務尚書マリーンドルフ伯が摂政皇太后の代理として、上級大将たちに元帥杖を授与した。ケスラーはオーベルシュタイン暗殺事件の捜査の陣頭に立っていること…

Struggles of the Empire 第1章 伝説の終焉(2)

新帝国暦3年7月26日23時29分、皇帝ラインハルト崩御。 既に先帝となったラインハルトが生前発していた勅令に従って、直ちに新帝アレクサンデル・ジークフリードが即位、皇后ヒルデガルドが摂政皇太后として、君主の権能のすべてを引き継いだ。夫の死によって…

Struggles of the Empire 第1章 伝説の終焉(1)

これから忙しくなる、誰にというでもなくそう呟いたウォルフガング・ミッターマイヤー元帥の見通しはまったく正しかった。まず彼自身がこなさなければならない職責があった。帝国軍三長官のうち、軍務尚書のオーベルシュタイン元帥は先刻、テロに斃れ、統帥…